MMT v.s. anti-MMT
色々な意見をScrapboxの箇条書きの1行コメントみたいな形にマージしたら面白いのではという実験
M(MMT) / A(Anti-MMT)
P: この記事で反対意見を投げかける役をしてる記者、専門家ではないし最終的に納得してしまってるのでAにくるのはやめた
B: 1月のWedgeの記事の著者、名前は忘れた
nishio.icon両陣営とも「相手陣営はバカだ」的なニュアンスのことを言うが、それは議論の邪魔なので取り除いていきたい
B土地バブル対策として導入された地価税は、議論から導入まで3年掛かっていて、その頃にはバブルは既に崩壊していた
nishio.icon面白い
「機動的に新しい税を作れなかった」「政府が人気取りで所得税増税延期をした」みたいなことを論拠にしてるけど、翌年の所得税率の累進度合いが今年のインフレ率を含んだ計算式で決まるようにするとかじゃダメなのかな。個別の増税議論など必要なく自動的に増税されるし、バブル盛り上がり中に「累進度合いを減らす」=「バブルで儲かってない人は据え置きでバブルで儲かってる人を減税する」なんてことをいって人気が取れるとは思えないが。
M 所得税や法人税には、増税しなくても自動的にインフレの過剰を防ぐ仕組みが内蔵されています。所得税は失業者など所得のない人には課税されませんし、法人税も赤字企業には課税されません。そのため、景気が悪くなると、非課税になる人や企業が増え、税収が減る。反対に、景気がいい時には、税収も増える。これをビルトインスタビライザー(自動安定化装置)と言います。[MMT v.s. anti-MMT#624e6ba3aff09e0000114500
nishio.icon所得税や法人税に既にインフレを防ぐ仕組みが入ってるので「機動的に新しい税を作れないからインフレが発生しても止められない」は杞憂という指摘
B予算の制約がなければ全ての予算請求は国民にとって必要なお金になり本当に必要な予算かどうかの判断軸がなくなる
nishio.iconいや、「予算の制約」が「必要かどうか」の判断に影響を与えるのおかしいだろ。だからコロナのような緊急事態に「必要だと思うけど予算の制約があるからできない」みたいなことが起こるんじゃん。
平時に繰り返し行われてる支出に対して「過去の実績から見るとあんまり意味がないからやめましょう」ってやるのと有事の支出に事前に「これは必要なのか」っていうのは全然別の話だよー
B高額なアルツハイマー病の新薬について考えよう、人命救助や介護負担軽減につながるので保険適用は好ましい、一方医療保険財政を考えると勤労世代の負担増
nishio.iconいやいや、だからそれ「MMTしないから」現役世代の負担増になってしまうんでしょ、なんでMMT反対の論拠みたいに使ってるの。
本来ならやった方がよい保険適用が、財政健全化というお題目のために適用されず、それによって本来なら防げてたアルツハイマーが発生して、現役世代に「介護負担」が発生するんでしょ。金銭的コストが介護負担に変わったことで帳簿上は財政健全化してるかもしれないけど文明の進歩に逆行してるじゃん…
nishio.icon
貨幣の総量が増えることでインフレが起こるのではなく、市場の供給能力以上に買おうとすることで値上がりが起こる、というのが眼から鱗
実際簡単な思考実験として、僕の銀行口座に4000兆円入れてもマクドのバーガーは高くならないし、僕の手元に現金札束4000兆円あっても同様だが、僕がそのお金全額で小麦を買ったらマクドのバーガーは値上がりするだろうな、と。
量が多くなれば価値が下がる、と素朴に思い込んでいた。貨幣の価値は希少さによって担保されてるわけではないのでこのイメージが間違ってる、と。
A 現代貨幣理論とは「現代ではマネーを無視していいのだ」という理論である。
A その結果出てくる政策提言は、インフレ水準がターゲットよりも低ければ、財政支出をとことん行い、インフレがターゲットを超えたらとことん財政支出を縮小し、とことん増税する、というものとなる
A 経済にとって必須であり、破滅しそうな社会を救うような財政出動は、もちろん行うべきである。しかし、失業率が歴史的に最低水準にあるような場合に、景気対策をするための財政出動はするべきでない
A MMTでは、その議論には立ち入らずに「財政支出を拡大する余地がある」とだけ説く。
A 役に立つ支出と無駄な支出と、害悪の支出とがある。その区別は財政支出という政策を議論する際に重要である。それを無視した政策提言は害
A MMT論者は「細かい政策の是非については、個別に議論すればよい。マクロ政策として、財政支出の規模を増やすべきだ」と主張するだろう。なぜ財政支出の規模を拡大するのが望ましいかと言えば、実際に困っている人々が社会にいる以上、その人たちを支援するための財政支出をするべきだ、ということを第1の理由として挙げる。
A しかし、「すべての人を理想的な状態まで助けることができればそれは良いが、支出にも限度があり、コストとベネフィットの見合いで、妥当な水準があるはずだ。闇雲に支出を増やすのはおかしい」と普通の人々が言えば、彼らは「いや、財政支出は、インフレ率が高くなりすぎなければ、どんどん拡大していい」と主張し
nishio.icon本当にそんな主張してる?藁人形論法では? M 財務省や主流派の経済学者を中心に、MMTはそんなことは言っていないのに、「野放図に財政出動するなんてバカげている」といった批判が噴出
A 「歯止めはインフレだ」という。あるいは「現在、インフレが起きていないことが財政支出が足りないことの何よりの証左である」と主張する
A インフレが起きない日本なら、どこまで財政出動してもいいと彼らは主張する。
nishio.icon本当にそんな主張してる?藁人形論法では?(again) A インフレ率は財政支出の規模の妥当性の指標ではない
A インフレは金融緩和によってマネーがじゃぶじゃぶになれば起こるものでもない
A 素朴な貨幣数量説が成立しない
確実に普通の状態より起こりやすいと思うのだが、なぜおこらないの?基素.icon
ここに関してはそもそもMMT側も同じ意見な気がするnishio.icon
A インフレは需要が過剰になれば必ず起こるものでもない
A MMTがインフレ率だけを頼りに財政支出の規模を決めることが誤っている
A 日本においては、2013年、2014年と需給ギャップが解消されてもインフレが起きず、インフレ率は景気の指標としても有効でないことが示されている
nishio.iconインフレ率が適切な指標ではない可能性がある、という指摘はまっとうに感じた
A 「財政出動をとことん行って金利が大幅に上昇しても、インフレがターゲットを超えない限り、財政支出を続ける」ということが起こりうる
M国債発行のオペレーションを思い出してください。国債を発行して財政出動を行うことで、民間資金は増える。「民間資金が枯渇して金利が上昇する」などという現象が起きるはずがない
A 大規模な財政支出により、民間投資が大幅に縮小する(クラウディングアウト)を起こす
A その結果、民間経済の活力、経済成長力は大幅に低下し、経済は長期的な大不況に陥ることになる。
現在デフレにより民間投資が大幅に減少していて、増加させるにはインフレ傾向にする必要がある。そのために財政支出が必要では?nishio.icon
「大規模な」財政支出により問題が起きるとしても、現状が適切なレベルより少ないのなら増やすべきでは?nishio.icon
A Mは「世界経済は低金利で困っている。とりわけ日本。その心配は杞憂だ」
A 金利が低いのは世界各国の中央銀行が無理やり低金利に押さえ込む、大規模な金融緩和を行っているから
A 低金利を維持したまま、大規模財政支出を継続すれば、民間の投資は、干上がってしまう。
A 投資資金は限られている
A 金利という価格による需給調節が効かなくても、
??nishio.icon
A 政府セクターに取られてしまえば、リスク資金は民間へ回ってこない
A 優秀な人材はすぐに枯渇する。民間投資として適切で利益の上がる投資を行える人材が不足する。彼らは、大規模財政支出に乗じて、その分野で稼ぐために活動しているからである。
A 中央銀行が資金を供給したところで、それを受け取る民間経済主体はいない。
A 将来の経済見通し、リスクが不透明のため
なぜ?nishio.icon
A 投資も控えるし、儲かるかわからない投資のための資金も利子率ゼロでも借りない。
そう?儲かるか儲からないか不確実なもののために資金を借りて投資することって普通に行われてない??nishio.icon
A ただで資金をくれるのであれば、それはもらうだろうが、それは中央銀行が行うのではなく、政府財政で行うことになるから、これは財政政策であり、民間投資ではない。
そう区別したいらしいけど区別する理由はよくわからないnishio.icon
A この財政支出がうまくいくかどうかが、保証されていない以上、この財政出動は意味がない。
うまくいくことが保証されてない財政支出が無意味というなら科学技術振興予算とか全部ダメになるのでは??nishio.icon
A この結果、自らリスクをとって金融機関も貸し出しを行うことはせず、企業も個人も借り入れで投資は行わなくなる。
A 中央銀行が国債の実質直接引き受けをせずに、通常の範囲での金融緩和を行っていれば、資金はほとんど国債に吸収され、民間に回る資金が枯渇し、民間経済主体の資金調達の金利は急騰する
A 民間投資は、大規模財政出動が行われる前から実行されていたものですら、干上がっていく
A そして、金融(株式や債券)市場は、暴落することになるだろう。
A 金利が上がるし、中央銀行が金利を押さえ込んだとしても、経済も将来の市場の不透明性が増大し、リスクが高まる。
A インフレになるリスク、そしてそのときに大増税、財政支出の急減による大不況のリスクがあるから、誰も投資しなくなるだろう。
インフレになる可能性が高ければ現金を現金の形で持っておくより物や事業の形にした方が得なので投資が活発化するのでは?nishio.icon
A つまり、リスクという現在と将来のバランスをとる機能を果たす価格、金融市場の最大の機能を殺すことにより、金融市場は大暴落、実体経済も大混乱となるだろう。
よくわからない...nishio.icon
A MMTにより、金融市場が崩壊してしまう可能性は、世界で日本が最も大きい。
A なぜなら、インフレが起こりにくい経済においては、財政支出の歯止めが効かないから
インフレがなぜ起きにくいのか
第1に、
A 企業の価格設定行動の結果の合計がマクロ的な物価水準である
A 日本では企業が値上げをできるだけしないようにする
A 消費者が値上げに過度に敏感であり、値上げで失う売り上げが大きいため
A 卸売物価は変動しても消費者物価にはあまり反映されない
A インフレが起きにくい
第2に、
A 過熱した実体経済において生み出された利益や所得は、実物財に回らず、現代ではその多くが資産市場に投資される。これは世界的な現象でもある
A だから、モノの値段は上がらず、株式や不動産だけが上がる
A 物価で上がっているのは不動産、つまり家賃が最も大きなものの1つなのである。
第3に、
A モノの供給が世界中からなされる
A 一国内の経済が過熱しても、その国の物価が上がるとは限らない
A これら3つの影響で、インフレ率は景気、需給ギャップの指標の役割を果たさなくなっている
A だから、金融緩和が過大になって資産市場がバブルになることが21世紀になって頻繁になっている
A しかし、中央銀行は物価だけでなく資産市場にも目配りをしているから、MMT論者よりはましなのである。
それが問題なのであればMMT的に支出して「インフレ率だけでなく資産市場の変化もチェックする」って修正すればいいだけでは?nishio.icon
A 経済や社会における、過大な財政支出の悪影響、コストはインフレだけではない。
A 労働力や設備など経済資源の無駄遣い
A 民間経済と公共部門とのバランスの喪失
A 成長力の低下
資本市場の機能
経済における資本の配分
誰が資本をどの程度利用するのが経済にとって望ましいか
どの時点に配分するか、という現在と将来の資源配分、資本配分
A 資本市場の機能をMMTが破壊する
A 価格メカニズムが資本市場において機能しなくなり しかも、その代わりに配分を行う主体を考えないことにより、資本の利用の非効率性が計画経済よりもひどいものになってしまうのである。
A 経済の長期成長力を徹底的に破壊する
A MMTは、この2つの機能を無視して会計的な現在のバランスだけを強調する
A MMTは、 市場、価格メカニズム、リスク配分、利子率という現在と未来との相対的な重要性、これらの要素をすべて無視している
M MMTは、20世紀初頭のクナップ、ケインズ、シュンペーターらの理論を原型として、アバ・ラーナー、ハイマン・ミンスキーなどの卓越した経済学者の業績も取り込んで、1990年代に成立した経済理論ですから、その原型も含めて考えれば約100年におよぶ歴史をもっています。
M MMTは、Aが大きな間違いを犯していることを暴きました。
M 貨幣について、Aは正しく理解していなかった
M MMTが正しいとすれば、Aはその基盤から崩れ去って、その権威は地に落ちることになるでしょう。
M MMTを最も手短に説明するとこうなります。日英米のように自国通貨を発行できる政府(中央政府+中央銀行)の自国通貨建ての国債はデフォルトしないので、変動相場制のもとでは、政府はいくらでも好きなだけ財政支出をすることができる。財源の心配をする必要はない
M 「日本政府はデフォルトしないから、いくらでも財政支出できる」というのは、MMTを批判する人々も同意している、あるいは同意できる、単なる「事実」
P「GDPに占める政府債務残高」は240%に近づいており、主要先進国と比較しても最悪の財政状況です
M ギリシャやイタリアよりずっと悪くて、日本はダントツの最下位です。なぜ、ダントツで最下位の日本ではなく、ギリシャやイタリアが財政危機に陥ってるのか?日本とギリシャが同じならば、日本の財政は2006年くらいの時点でとっくに破綻してなければおかしいじゃないですか?
M 簡単な話で、ギリシャとイタリアはユーロ加盟国で、自国通貨が発行できないからです。
P 2001年に財政破綻したアルゼンチンは? アルゼンチンには「アルゼンチン・ペソ」という自国通貨がありますよね?
M アルゼンチンの場合は、外貨建ての国債がデフォルトした。外貨建て国債の場合には、その外貨の保有額が足りなければデフォルトします。
M 日本は、ほぼすべての国債が自国通貨建てですから、自国通貨を発行して返済にあてればいい。
M 歴史上、返済の意志のある国の自国通貨建ての国債がデフォルトした事例は皆無です。
M これは財務省も認めている、2002年に外国の格付け会社が日本国債の格付けを下げたときに、財務省は「日・米など先進国の自国建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。」という反論の意見書を出しました。
M 国家の経済運営を企業経営や家計と同じ発想で考えるのは間違い。政府は通貨を発行する能力がある、民間企業や家計とは決定的に異なる存在
P 政府がこれ以上借金できなくなるときが来るのではないですか? いまの日本には、民間の金融資産(預金)が豊富にあるから、銀行は国債を引き受けることができますが、いずれ民間の金融資産が逼迫してくれば、国債を引き受けることができなくなるはずです。
M 国債引受のために民間の金融資産が減っているならば、国債金利を上げなければ新たな国債を引き受けてもらえないはずですよね?しかし、1990年代から国債を発行しまくって政府債務残高がどんどん増えて、「国債金利が高騰する、高騰する」と言われ続けてきましたが、ご覧のとおり長期国債金利は下がり続けています。世界最低水準で、ついにはほとんどゼロにまで下がっています。
M 国債金利が世界最低水準にあるということは、世界中のどの国よりも国家財政が信認されている証拠でもあります。なぜ、そんな国が財政危機なんですか?
M 国債を発行して、財政支出を拡大すると、民間金融資産(預金)が増える
「貨幣の価値は、貴金属のような有価物に裏付けられている」という商品貨幣論は間違いです。 1971年にドルと金の兌換が廃止されて以降、世界のほとんどの国が、貴金属による裏付けのない「不換貨幣」を発行しています。ところが、誰も貨幣の価値を疑いはしませんでした。
「今日、貨幣とは負債の一形式であり、経済において交換手段として受け入れられた特殊な負債である」要するに、貨幣は「特殊な借用証書」
政府は円やポンドやドルを自国通貨として法律で定め、次に国民に対して税を課して、法律で定めた通貨を「納税手段」として定める
これで国民にとって法定通貨が「納税義務の解消手段」としての価値をもつ
こうして人々は、通貨に額面通りの価値を認めるようになる
貨幣の大半を占めるのは、現金よりもむしろ銀行預金。日本では、貨幣のうち現金が占める割合は2割未満
預金通貨は、銀行が「無」から創造している
銀行は預金を元手に貸出しを行うのではなく、貸出しによって預金という貨幣を創造しているのです。そして、借り手が債務を銀行に返済すると、預金通貨は消滅します。
銀行からおカネを借りたい個人や企業がいるから、信用創造は行われるのです。銀行がいくら信用創造をしたくても、借り手がいなければ信用創造はできない
銀行の貸出しの制約となるのは貸し手(銀行)の資金保有量ではなく、「借り手の返済能力」ということになります。大雑把にいえば、「借り手側に返済能力がある限り、銀行はいくらでも貸出しを行うことができてしまう」ということ。もっと言えば、「借り手側に返済能力がある限り、銀行はいくらでも預金貨幣を生み出すことができる」ということです。
英米仏などほとんどの先進国において、国家予算に計上する国債費は利払い費のみで、償還費を含めていません。ところが、なぜか日本は償還費も計上している
政府がさかんに国債を発行して公共投資をやり、投資減税や消費減税をやったら、需要が拡大して、供給力を超えるので、インフレになります。
それにもかかわらず、公共事業をやりまくり、ついでに無税にしたら、おそらくインフレが止まらなくなり、ついにはハイパーインフレになるでしょう。
ハイパーインフレになれば、お札はただの「紙切れ」になってしまいます。いくら政府に通貨発行権があっても、その通貨が無価値になってしまうのですから、ハイパーインフレはさすがに困ります。
財政赤字はどこまで拡大してよいかと言えば、「インフレが行きすぎないまで」ということになります。したがって、財政赤字の制約を決めるのはインフレ率(物価上昇率)だということになります。
財務省も主流派経済学者もマスコミも、「日本の財政赤字が大きすぎる」と騒いでいますよね?しかし、財政赤字が大きすぎるならば、インフレが行き過ぎているはずです。ところが、日本はインフレどころか、20年以上もデフレから抜け出せずに困っているんです。おかしいと思いませんか?
日本がデフレだということは、財政赤字は多すぎるのではありません。少なすぎるんです。
インフレ率が財政赤字の制約だということは、デフレである限りは、財政赤字はいくらでも拡大してもいいということです。デフレのときには、財政赤字に制約はないのです。
「いまの日本では財政規律は不要である」と聞くと、とんでもない“非常識”な話に聞こえてしまいます。
それは、デフレが異常な現象だからです。第二次世界大戦後、世界中の経済政策担当者が最も恐れたのがデフレであり、戦後、なんとかしてそれを回避し続けてきました。ところが日本は1991年ごろにバブルが崩壊し、1997年の消費増税と緊縮財政を主因に、1998年に、ついに第二次大戦後、世界で初めてデフレに突入しました。
しかも、このデフレは図1が示すように、20年を超える異例の長期にわたって続いています。
日本経済は、1998年以降、基本的にずっとデフレだったと言っていいでしょう。こんな長期のデフレは、この世界のなかで日本だけです。実に不名誉な実績というほかありません。
その間の経済成長率(名目GDPの成長率)日本は最下位。しかも、日本だけがマイナス成長率を記録しているんです。おかしいと思いませんか? 1990年代半ばまでは、ある程度、成長していたのに、1990年代半ばあたりを境に、日本だけが、突然、ポキッと折れたかのように、成長が止まっています。しかも、日本だけが長期のデフレに陥っている。
平成の日本経済は、世界的に見ても明らかに異常だったんです。これほど極端な現象が日本だけで起きているということは、社会の成熟、産業構造の変化、少子高齢化といった要因では、とうてい説明できません。
デフレとは、一般的には、一定期間にわたって、物価が持続的に下落する現象のことを言います。
その反対に、物価が持続的に上昇する現象は、インフレと呼ばれます。
では、デフレは、どうして起きるのか? それは、経済全体の需要(消費と投資)が、供給に比べて少ない状態が続くからです。需要がないのだからモノが売れない状態ですね。このように「需要不足/供給過剰」がデフレ(物価の下落)を引き起こすわけです。
そして、デフレとは物価が下落していくことですから、裏返して言えば、おカネの価値が上がっていくということです。デフレとは、持っているおカネの価値が上がっていく現象なんです。
つまり、デフレになると、人々がモノよりもおカネを欲しがるようになるわけです。消費者であれば、モノを買うのを我慢して貯金するでしょうし、企業であれば、投資をして事業を拡大するよりも、内部留保として現預金を溜め込もうとするでしょう。
その結果、需要(消費と投資)はさらに縮小して、デフレがさらに悪化していくことになります。しかも、そんな状況を放置すれば、企業も労働者も将来への不安をさらに強めますから、余計におカネを使わずにため込むようになる。こうして、悪循環が無限に続くんです。
そうですね。それで、デフレの何が悪いのかというと、第一に、人々は消費をしなくなるのでマーケットが小さくなることです。マーケットが小さくなるのですから、企業の売上は下がり、赤字に陥り、最悪の場合には倒産します。労働者は、給料が下がったり、仕事そのものがなくなっていきます。その結果、現在の世代がどんどん貧困化していくわけです。
――実際に、日本では相対的貧困率が上がっていますね。
第二に、企業が投資をしなくなることです。マーケットがずっと縮小していくわけですから、事業を拡大するために投資をするはずがありません。それに、デフレで将来も貨幣価値が上がっていくので、あとで借金を返済するときに実質的な返済額が膨らんでたいへんなことになりますから、銀行から融資を受けるような大型投資にはきわめて慎重になります。
これが深刻で、なぜなら、投資とは将来に利益を得るために行うものだからです。投資をするから、将来世代が豊かになるわけです。ところが、デフレ下では投資が減りますから、それだけ将来世代が貧困化することになります。つまり、デフレは、現役世代も将来世代も貧困化する恐ろしい現象なんです。
銀行融資を受けるような大型投資が減るということは、信用創造が減少するということですね?
そうです。先ほども言ったように、「信用創造」という銀行制度が生まれたからこそ、資本主義経済は発展してきたのです。信用創造は資本主義経済の根幹であり、経済成長の最大のエンジンなんです。
ところが、デフレ下においては、その信用創造がなくなっていきます。それはいわば「資本主義の死」です。だから、私はデフレは異常事態だと言ったんです。世界中の経済政策担当者が「デフレだけは起こしてはならない」と考えて、最大限の警戒をしているのも当然のことです。
にもかかわらず、日本はデフレを起こしてしまい、もう20年も脱却できずにいる……。そして、デフレという異常な状態にあるために、「いまの日本では財政規律は不要である」という”非常識”な結論になるというわけですね?
そういうことです。
デフレ下では、節約するのが経済合理的ですから誰も消費・投資をしない
需要と供給の差(デフレ・ギャップ)は埋まりません。
政府が財政出動で需要を生み出して、デフレ・ギャップを埋める以外に、デフレから脱却する方法はない
先ほど私は、「デフレのときには、財政赤字に制約はない」と言いましたが、デフレのときに財政赤字に制約を設けると、デフレから脱却することができないと言うべきなんです。
デフレ下においては、民間のビジネスでは節約が美徳であっても、その美徳を政府に求めたらデフレから脱却できなくなるからです。むしろ、政府は民間とは逆の行動をとらなければならない。デフレのときには支出を増やし、インフレのときには支出を減らすことで、経済を調整するのが政府の役割なんです。
財政政策は景気対策として有効ではない」は本当か?
バブル崩壊後の1990年代に巨額の公共事業が景気対策として行われたけれど、不況から脱することができなかったので、財政政策は有効ではないというわけです。
それも事実誤認です。まず、日本の公共投資が増加したのは、90年代前半だけで、90年代後半以降は減少に転じ、2000年代に入ると公共投資はさらに減らされました。
そして、日本経済がデフレに突入したのは、まさに公共投資が減少し、消費税が5%へと増税された直後の1998年からです。公共投資が減らされる前の90年代前半は、少なくともデフレは回避できていたのです。
緊縮財政を各国で実施してきた、あの国際通貨基金(IMF)ですら、2014年10月の「世界経済見通し」において、日本の90年代前半の財政政策を検証して、当時の公共投資の規模は不十分であったものの、効果がなかったというのは間違いであると結論しています。
P日本はグローバル化が進んだために、公共投資による景気効果は弱くなっている
Mそれは主流派経済学の大物であるローレンス・サマーズが「MMTは閉鎖経済を前提としていて、開放経済では通用しない」とMMT批判をするときのロジックと同じですね。
MAは「開放経済下では、財政赤字を拡大することによって、たしかに内需が増えるが、そうすると民間資金が枯渇して金利が上昇するから通貨高になる。通貨が高くなると外需が減るから、せっかく増やした内需を相殺する。だから、開放経済下では財政政策は無意味だ」という
M国債発行のオペレーションを思い出してください。国債を発行して財政出動を行うことで、民間資金は増える。「民間資金が枯渇して金利が上昇するから通貨高になる」などという現象が起きるはずがない
M Aは集めた預金を貸し出していると思い込んでいるから、資金が逼迫すると勘違いしている。信用創造という資本主義の基本中の基本を理解していれば、こんな理解にはならないんです。
リフレ政策がほとんど効果がないのも当たり前
「リフレ政策」とは、日銀は「インフレ率を2%にする」という目標(インフレ・ターゲット)を掲げ、その目標を達成するべく、大規模な量的緩和(マネタリー・ベースの増加)を行うというものです。
マネタリー・ベースとは、銀行が日銀に開設した「日銀当座預金」のことです。銀行が保有している国債や株式を日銀が“爆買い”して、その対価として「日銀当座預金」を爆発的に増やせば、銀行は積極的に企業などに貸し付けることで、市中の通貨供給量(現金と預金通貨)を増やすことができると考えたわけです。
通貨供給量を増やしてデフレを脱却しようということ自体は正しいんです。デフレとは、貨幣の価値が上昇していく状態です。つまり、市中に出回っている通貨が少ないから、その価値が高まっているとも言えるわけです。だから、たしかに、市中の通貨供給量が増えればデフレを脱却することができるはずなんです。
だけど、銀行は「日銀当座預金」を原資として貸し出しをしているわけではありません。「信用創造」によって貨幣が市中に供給されるのは、借り手が銀行に融資を申し込んだときなんです。ところが、いまはデフレなので借り手がいない。だから、いくら「日銀当座預金」を積み上げても、貨幣供給量は増えません。
実際、量的緩和で400兆円くらい日銀当座預金を増やしたけど、インフレ率は2%には遠く及ばない
マネタリー・ベースはガンガン増えていますが、GDPはピクリとも動いていません。これを見れば、マネタリー・ベースの量はGDPとは全然関係ないことが一目瞭然です。
OECD33ヵ国の1997~2015年の財政支出の伸び率とGDP成長率をプロットした。財政支出とGDPには、強い相関関係がある、日本だけがポツンと最下位。日本が負け続けている理由は明らか、財政支出を抑制しているから
1997年と2014年の消費増税による消費抑制効果というのは、「100年に一度の危機」と言われたリーマン・ショック、「1000年に一度の大震災」と言われた東日本大震災と同じくらいの効果をもっている
無税にするとハイパーインフレになってしまう。だから、税というものは、需要を縮小させて、インフレを抑制するために必要
プライマリー・バランスの黒字化とは、国民を貧困化させること
その間に、ヨーロッパやアメリカの名目GDPは2倍前後にまで増えました。もし日本がデフレを回避して、欧米並みに成長していれば、それだけで現在の名目GDPは1000兆円を超していたでしょう。であれば、現在のように社会保障の財源が問題視されることなど、なかったはず
需要が堅調であると民間が認識するようになれば、その需要に応えるべく供給力を向上させるために民間は投資を拡大する
インフレになって、貨幣の価値が下がり始めますから、カネを保有しているのではなく、消費や投資に回すのが経済合理的な行動になります。それが、経済成長の原動力になる
P 「財政赤字をこれ以上拡大すると、ハイパーインフレになる」というMMT批判
M 誰が、ハイパーインフレになるまで財政赤字を拡大しろと言っている? デフレを脱却し、インフレ率が2〜4%になる程度にまで、財政赤字を拡大させればいいだけの話で、例えば、インフレ率が4%になったら、財政赤字の拡大をやめればいい
P 国民の抵抗が予想されるから、機動的な増税は難しい
M 所得税や法人税には、増税しなくても自動的にインフレの過剰を防ぐ仕組みが内蔵されています。所得税は失業者など所得のない人には課税されませんし、法人税も赤字企業には課税されません。そのため、景気が悪くなると、非課税になる人や企業が増え、税収が減る。反対に、景気がいい時には、税収も増える。これをビルトインスタビライザー(自動安定化装置)と言います。
M これに対して、消費税は、失業者であろうが赤字企業であろうが、消費をする以上は、税を課す。
A'いったん財政規律を弛めて、財政赤字の拡大を認めたら、高インフレになっても、政治は、国民が嫌がる歳出削減や増税を決断できない。その結果、ハイパーインフレになる
M政治は消費増税を決断できた。インフレで苦しくなったときに、財政削減や増税を決断できないはずがない
M 財政民主主義で財政赤字の拡大が止まらなくなってハイパーインフレになったなどという事例は歴史上一度もない
ハイパーインフレは、第一次世界大戦後のドイツのように戦争で供給力が徹底的に破壊された場合や、内戦で混乱して必要なものをつくれなくなったときに起こっています。
あるいは、ジンバブエのムガベ政権のように、独裁者がめちゃくちゃな政策をやった場合
90年代に旧社会主義国が資本主義国に移行するときに社会が混乱をきわめた場合
今の日本はそんな状況にありませんよね?
地震や台風などの大規模な自然災害が頻発して、その被害によって供給力が破壊されても、それを放置すればハイパーインフレはありうる。それを避けるためには、防災のための公共投資を増やすべき。
途中までやったけど疲れたので中断nishio.icon
面白そうだけど一行目から難しくて大変はるひ.icon